「HubSpotにしようか、Salesforceにしようか」——CRM・MAツールを初めて導入しようとしている企業の担当者やCEOから、この相談を受けることは非常に多いです。どちらも世界的にシェアの高いプラットフォームであり、機能面でも重複する部分が多いため、外から見ると「どこが違うのか」が把握しにくいのは当然のことです。
この記事では、HubSpotとSalesforceの違いを機能・費用・運用負荷・向いている組織規模の4軸で整理し、「自社はどちらを選ぶべきか」を判断するための実務的な基準を提示します。両ツールの導入支援に携わってきた経験から、単なる機能比較にとどまらず、導入後の運用リアルを踏まえた観点でお伝えします。
なお、この記事では主にBtoBのスタートアップ・中小企業(従業員数5〜300名程度)が初めてCRM/MAを本格導入するシーンを想定しています。大企業向けのエンタープライズ文脈とは異なる部分もありますので、自社の状況に照らし合わせながらお読みください。
目次
HubSpotとSalesforceは「似て非なる」ツールである
まず両ツールの基本的な立ち位置を整理します。機能比較の前に、設計思想の違いを理解することが選定判断の出発点になります。
HubSpotとSalesforceは、どちらも「CRM」と呼ばれることが多いですが、その設計思想は根本的に異なります。
HubSpotはもともとインバウンドマーケティングのプラットフォームとして2006年に創業されました。マーケティング・セールス・カスタマーサクセスの各機能が一つのプラットフォームに統合されており、中小企業でも比較的短期間で使い始められる「オールインワン性」が特徴です。
一方のSalesforceは、2000年代初頭からエンタープライズ向けのSFA(営業支援システム)として市場をリードしてきたプラットフォームです。カスタマイズ性と拡張性が極めて高く、数百〜数千人規模の営業組織でも運用できる柔軟性を持ちます。ただしその分、設定・カスタマイズには専門知識が必要であり、管理コストも相応に発生します。
端的に言えば、HubSpotは「使いやすさとマーケティング連携を重視した中小企業向けの統合プラットフォーム」であり、Salesforceは「カスタマイズ性と拡張性を重視したエンタープライズ向けのSFA/CRM基盤」です。この設計思想の違いが、機能・費用・運用負荷のすべてに影響を及ぼします。
機能面の違い:CRM・SFA・MAをどこまでカバーするか
具体的な機能領域ごとに、両ツールのカバー範囲と得意・不得意を整理します。
CRM(顧客管理)機能
顧客情報や取引先の管理という基本的なCRM機能については、HubSpotもSalesforceも十分な水準を持っています。コンタクト・会社・案件のオブジェクト管理、活動ログの記録、Gmailや OutlookなどとのメールSync機能はどちらもサポートしています。
違いが出るのはデータモデルの柔軟性です。Salesforceは独自のオブジェクトや項目を自由に作成でき、複雑な商流・業種特有の業務フローをシステム上で再現することが可能です。HubSpotも2022年以降はカスタムオブジェクトに対応していますが、Salesforceほどの自由度はありません。
SFA(営業支援)機能
営業のパイプライン管理・案件ステージ管理においては、SalesforceのSales Cloudが業界標準として長年使われてきた実績があります。複数の営業チームや複雑な商談フロー、承認ワークフローなどを細かく設定したい場合はSalesforceの方が柔軟に対応できます。
HubSpotのSales Hubも基本的なパイプライン管理・メールシーケンス・商談予測機能を備えており、数十人規模の営業チームであれば十分に機能します。UIが直感的なため、営業担当者のCRM入力率が上がりやすいというメリットもあります。
MA(マーケティングオートメーション)機能
MA機能においては、HubSpotに明確な優位性があります。HubSpotのMarketing Hubにはメール配信・ランディングページ・フォーム・ワークフロー自動化・リードスコアリング・アトリビューションレポートが標準で含まれており、別途MAツールを導入する必要がありません。
Salesforceの場合、MA機能はMarketing Cloud(旧ExactTarget)またはMarketing Cloud Account Engagement(旧Pardot)を別途契約する必要があります。両製品とも高機能ですが、追加費用が発生し、Salesforce本体との連携設定にも工数がかかります。BtoBのインバウンドマーケティングをメインとする場合、HubSpotの方がトータルコストとスピードの観点で有利です。
HubSpotのワークフロー設計やリードスコアリングの詳細については、HubSpotワークフロー設計の記事やHubSpotリードスコアリングの設定方法も参照してください。
費用の違い:初期コスト・月額費用・運用コストを含めたトータルで比較する
ツール選定では「ライセンス費用だけ」で比較しがちですが、初期設定費用・運用人件費・外注費を含めたトータルコストで判断することが重要です。
ライセンス費用
HubSpotは無料のCRMから始められ、Marketing Hub・Sales Hub・Service HubなどのHubを必要に応じて追加契約する形です。Starter(月額数千円〜)からProfessional(月額数万円〜)、Enterprise(月額十数万円〜)と段階的にスケールできます。
Salesforceの場合、最小構成でもSales Cloudのライセンス費用は1ユーザーあたり月額数千円〜数万円程度であり、MA機能を追加する場合はさらに費用が積み上がります。ユーザー数が増えるにつれてライセンス費用が線形に増加する点も、中小企業にとって検討ポイントになります。
なお、具体的な価格は両社とも定期的に改定されているため、公式サイトの最新情報を確認することを推奨します。
初期設定・導入コスト
Salesforceは高度なカスタマイズができる分、初期設定に専門的なスキルが必要です。社内にSalesforceの管理者資格(Salesforce Administrator)を持つ人材がいない場合、外部パートナーへの委託費用が発生することがほとんどです。初期構築だけで数十万〜数百万円の費用感になるケースも珍しくありません。
HubSpotは初期設定の難易度が比較的低く、外部パートナーに依頼する場合も、Salesforceと比較してスコープが小さくなるケースが多いです。ただし、しっかりとした設計(プロパティ設計・ワークフロー・レポート設計など)を行うためには、やはり専門知識を持つパートナーの支援が有効です。HubSpotの初期設定チェックリストも参考にしてください。
運用コスト(継続的なランニングコスト)
Salesforceは機能が豊富な一方、継続的な管理・アップデート対応・ユーザートレーニングなどのオペレーション負荷が高くなる傾向があります。専任の管理者を社内に置くか、外部パートナーに運用を委託する体制が必要になるケースが多いです。
HubSpotは比較的セルフサービスで運用しやすい設計ですが、組織の成長とともに設定の複雑度が上がると、やはり専門的なサポートが必要になります。HubSpotの運用を外部に委託する選択肢についてはHubSpot運用外注の記事を参照してください。
向いている組織・向いていない組織:規模・フェーズ別の判断軸
どちらのツールが「正解」かは組織の状況によって異なります。規模・フェーズ・マーケと営業の比重という3つの軸で判断基準を整理します。
HubSpotが向いている組織
- 従業員数5〜200名程度のスタートアップ・中小企業
- インバウンドマーケティング(コンテンツ・SEO・メール)を中心に顧客獲得を進めたい
- マーケティングと営業を一つのプラットフォームで一元管理したい
- CRM・MA・SFAの専任担当者がおらず、比較的少人数で運用したい
- まず無料版・Starterで使い始め、成長に合わせてアップグレードしたい
特にシード〜シリーズAフェーズのスタートアップには、HubSpotが合うケースが多いです。スタートアップ向けHubSpot活用の記事も参考にしてください。
Salesforceが向いている組織
- 従業員数200名以上、または急速に組織拡大中の企業
- 複雑な商談プロセス(複数の承認フロー・複数拠点・代理店チャネルなど)がある
- 業種特有の業務フローをCRM上でカスタマイズして再現したい
- すでにSalesforceを使っている取引先・パートナーとのデータ連携が必要
- IT部門または専任のSalesforce管理者を確保できる
Salesforceはそのカスタマイズ性の高さゆえ、組織の業務プロセスが複雑であればあるほど真価を発揮します。一方で、その複雑さに対応できる運用体制がなければ、費用だけかかって活用できないリスクも存在します。
「どちらでもない」ケースの判断
200〜500名規模でSalesforceを使っているが機能を持て余している、あるいはHubSpotを使っているが商談管理の細かい設定に限界を感じてきた——という中間フェーズも存在します。このような場合、Salesforceのみ・HubSpotのみという二択ではなく、HubSpotをMA・マーケ側のプラットフォームとして活用し、SFAとしてSalesforceを使う「ハイブリッド構成」も現実的な選択肢です。両ツールはネイティブインテグレーションを持っており、データ連携が可能です。
実際の導入現場から見えてくる「失敗パターン」
ツール選定において陥りがちな失敗パターンを、導入支援の現場で見てきた事例をもとに整理します。
「将来の拡張性」を理由にSalesforceを選んで運用が回らなくなるケース
「将来100人規模になったときにも対応できるように」という理由でSalesforceを選ぶスタートアップは少なくありません。しかし現時点で営業担当者が5〜10名しかいない段階でSalesforceのフル機能を導入すると、設定・運用の複雑さに現場が追いつかず、結局CRMへの入力率が低いまま形骸化するというケースが起きます。
ツールはあくまで現在の組織フェーズに合わせて選ぶことが基本です。将来の拡張性は重要ですが、「今使えること」の方が優先されます。
「無料だから」という理由だけでHubSpotを選んで設計が甘くなるケース
HubSpotの無料CRMは確かに強力ですが、「無料で始めたからとりあえず使ってみる」という形で設計を省略すると、プロパティの設計がバラバラになり、後からデータのクレンジングに大きな工数がかかります。HubSpotのデータクレンジングに関する記事でも触れていますが、初期設計の質が長期的な運用品質を決定します。
無料から始めること自体は合理的ですが、プロパティ設計・ライフサイクルステージの定義・パイプライン設計などの「設計ワーク」は最初にきちんと行う必要があります。
HubSpotとSalesforceを「二重管理」してしまうケース
マーケ側がHubSpotを使い、営業側がSalesforceを使っているが連携が取れておらず、同じ顧客情報を両方に入力している——という状態に陥っている企業があります。これはツールの問題ではなく、どちらをマスターデータの源泉とするかを決めていないことが根本原因です。ハイブリッド構成を取る場合は、どちらのデータが正として双方向に同期するかの設計が不可欠です。
HubSpot vs Salesforce 比較表:主要な選定軸の一覧
ここまでの内容を表形式で整理します。自社の状況と照らし合わせてご活用ください。
「どっちを選ぶか」の判断フロー:3つの問いに答えるだけ
ここまでの内容を踏まえ、シンプルな判断フローを提示します。すべての軸を検討しなくても、以下の3問に答えることで方向性が見えてきます。
- Q1:インバウンドマーケティング(SEO・コンテンツ・メール配信)を本格的に取り組む予定がありますか?
→ Yesであれば、MA機能が標準装備されているHubSpotが有利です。SalesforceでMA機能を実現するには追加製品と追加費用が必要になります。 - Q2:営業の商談プロセスが複雑で、システム上で細かく再現する必要がありますか?(例:複数の承認フロー・代理店チャネル・数百名の営業組織など)
→ Yesであれば、Salesforceのカスタマイズ性の高さを活かす方向を検討してください。現在のフェーズでそこまでの複雑さがないなら、HubSpotで十分対応できます。 - Q3:CRM/MAを担当する専任のエンジニアや管理者を社内に確保できますか?
→ Noであれば、HubSpotが現実的です。Salesforceは運用体制を整えずに導入すると管理コストが増大するリスクがあります。外部パートナーへの委託を前提にするとしても、HubSpotの方が委託範囲を抑えやすいケースが多いです。
3問すべてに答えた結果、Q1がYesでQ2・Q3がNoであればHubSpotが有力候補です。Q2がYesでQ3もYes(または整備できる見込みがある)であれば、Salesforceを検討する価値があります。Q1もQ2もYesで組織が中規模以上であれば、ハイブリッド構成も選択肢に入ります。
なお、HubSpotの導入支援や現状の設計見直しについてはご相談を承っています。記事の末尾にあるお問い合わせフォームからご連絡ください。
まとめ:HubSpotとSalesforceの違いと選び方
HubSpotとSalesforceは、どちらも優れたプラットフォームですが、設計思想・得意領域・適した組織規模が異なります。以下に要点を整理します。
- HubSpotは中小企業・スタートアップに向いており、MA・マーケ・セールス・CSのオールインワン統合と使いやすさが強み。インバウンドマーケを軸に顧客獲得を進める組織に適しています。
- Salesforceは複雑な商談プロセスや大規模組織に向いており、カスタマイズ性と拡張性が強み。専任の管理者や外部パートナーによる運用体制が前提になります。
- 両ツールは二択ではなく、HubSpot(MA・マーケ)+Salesforce(SFA)のハイブリッド構成も現実的な選択肢です。その場合はデータのマスター設計が重要です。
- 「将来の拡張性」より「今使えること」を優先してツールを選ぶことが、現場定着の観点から重要です。
関連記事として、HubSpot vs Marketo の比較、HubSpot vs Pardot の比較、CRMとMAの違いを解説した記事もあわせてご参照ください。
よくある質問(FAQ)
- HubSpotとSalesforceを同時に使うことはできますか?
- 可能です。HubSpotとSalesforceはネイティブの双方向インテグレーションを提供しており、コンタクト・会社・案件などの主要データをリアルタイムで同期できます。マーケティング活動はHubSpot、商談管理はSalesforceという分業体制を取る中堅企業も存在します。ただし、どちらのデータを「マスター」にするかの設計が不可欠です。
- スタートアップが最初から Salesforce を選ぶのは得策ですか?
- 多くのケースでは得策とは言えません。Salesforceはカスタマイズ性が高い分、初期設定・運用にかかる工数とコストが大きく、組織が小さいフェーズでは機能を持て余すリスクがあります。シードからシリーズAフェーズであれば、まずHubSpotでCRM・MA・SFAを統合的に管理し、組織拡大やプロセス複雑化に合わせてSalesforceへの移行または併用を検討するというステップアップのアプローチが現実的です。
- HubSpotはSalesforceに比べてレポート機能が弱いのですか?
- 初期の印象として「弱い」と言われることがありますが、現在のHubSpot(特にProfessional・Enterprise)のカスタムレポート機能は大きく改善されており、BtoBマーケティングのKPI管理に必要なほとんどのレポートを作成できます。アトリビューションレポートや収益レポートについても強化が続いています。ただし、複数のビジネスユニットを横断した複雑な分析を必要とする場合は、Salesforceのレポート・BIツールとの連携の方が柔軟に対応できます。
- HubSpotからSalesforceへの移行は難しいですか?
- 移行の難易度はデータ量・カスタマイズ度によって大きく異なります。HubSpotのデータはCSVエクスポートが可能であり、標準的なオブジェクト(コンタクト・会社・案件)であればインポートできます。ただし、ワークフローや自動化の設定はそのまま移行できないため、Salesforce上で再設計が必要です。MAツール乗り換えの手順を解説した記事も参考にしてください。
- どちらのツールの方が導入コストを抑えられますか?
- 初期費用・運用費用の両面でHubSpotの方がコストを抑えやすい傾向があります。HubSpotには無料のCRMがあり、必要な機能から段階的に課金プランへ移行できます。Salesforceは最小構成でもライセンス費用が発生し、カスタマイズや管理者コストを含めたトータルコストはHubSpotより高くなることが多いです。ただし、組織規模や必要な機能によって逆転するケースもあるため、自社の要件を整理した上で見積もりを比較することを推奨します。
ご相談・お問い合わせ
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この記事を書いた人
Tomohiro Toukaichi
BtoB SaaSのマーケティング責任者を経験後、フリーランスとして独立。マーケティング戦略設計、KPI・予算設計、広告運用、HubSpot設計・ファネル構築・リードナーチャリングなど、戦略から実行まで一気通貫で支援。