HubSpotを使いこなせない原因と対処法|BtoBマーケで陥る7つの罠

HubSpotを導入してから半年〜1年が経ち、「思ったほど使いこなせていない」と感じていませんか。ダッシュボードを開いても眺めるだけで終わっている、ワークフローはオンボーディング時に作ったまま放置、レポートは毎月同じ数字をエクスポートして資料に貼るだけ——こうした状態は、決して珍しいことではありません。むしろBtoB企業のHubSpot活用において、最も典型的なつまずき方です。

問題は「機能を覚えていない」ことではありません。HubSpotが使いこなせない原因のほとんどは、ツールの操作スキル不足ではなく、その手前にある設計・運用・組織の3層のいずれかに潜んでいます。本記事では、現場でよく観察される7つの典型的な原因を構造的に分解し、それぞれに対する立て直しのアプローチを解説します。「ツールを使う」ではなく「ツールに仕事をさせる」状態に持っていくための、診断型のガイドとして読んでください。

HubSpotを使いこなせない状態とは何か

このセクションでは、「使いこなせない」という曖昧な状態を、観察可能な5つの兆候に分解します。

「HubSpotを使いこなせていない」という言葉は、人によって指している状態が異なります。経営層が言う「使いこなせていない」と、現場担当者が言う「使いこなせていない」は、しばしば別の問題を指しています。立て直しの第一歩は、自社が今どの段階で詰まっているかを正確に特定することです。

典型的な5つの兆候

BtoB企業のHubSpot運用が機能不全に陥っているとき、以下のような兆候が現れます。

  • データは溜まっているが分析されていない:コンタクトは数千件あるが、誰も定期的にセグメントを切って中身を見ていない
  • ワークフローが「導入時の遺物」になっている:オンボーディング時に作ったまま、誰も触っていない・触れない
  • レポートが意思決定に使われていない:数字は出ているが、施策の判断材料になっておらず、報告のための報告になっている
  • 営業がHubSpotを更新しない:Sales HubやCRM連携を入れたのに、商談ステータスがGoogleスプレッドシートで管理され続けている
  • 「HubSpot担当者」が一人に属人化している:その人が休むとMAが完全に止まる、退職リスクが見えている

1つでも当てはまれば、ツールの問題ではなく運用構造の問題が起きている可能性が高いと考えてよいでしょう。

HubSpotが使いこなせない状態の3層構造 第1層|設計の問題 MQL定義が曖昧、ライフサイクルステージが現実と合わない、プロパティ設計が破綻 → 何を計測すべきか不明確になり、ツールが意思決定に使えない 第2層|運用の問題 ワークフローが塩漬け、レポートが見られない、データ品質の低下が放置 → 動いているように見えて、実は何の成果も生まない 第3層|組織の問題 担当者の属人化、営業との分断、経営層の関心欠如 → 個人の頑張りに依存し、仕組みとして自走しない
HubSpotが使いこなせない原因は、設計・運用・組織の3層に分けて整理すると診断しやすくなります。多くの場合、複数層にまたがって問題が発生しています。

原因①|MQLの定義が曖昧で、誰のためのツールか分からない

このセクションでは、HubSpot運用が機能しない最大の根本原因である「MQL定義の不在」について解説します。

HubSpotが使いこなせない原因の第一位は、ほぼ常に「MQLの定義が曖昧であること」です。MQLとはMarketing Qualified Leadの略で、マーケティング側が「営業に渡してよい」と判断したリードを指します。この定義が言語化されていないと、HubSpotは単なる名簿管理ツールに堕します。

MQL定義が曖昧な状態では、以下のような連鎖が起きます。スコアリングを設定しても基準点を決められない。ワークフローでアラートを飛ばす条件が決まらない。レポートで「マーケが何件貢献したか」を語れない。結果として、HubSpotの中核機能であるオートメーションとレポーティングがまったく機能しなくなります。

MQL定義は「BANT情報が揃った」「資料DLから2週間以内に再訪した」「特定ページを閲覧した」といった具体的な条件の組み合わせで設計します。詳しい設計手順はHubSpotでMQLを定義・設定する方法MQLとSQLの定義と設計方法を参照してください。

「定義はあるが運用されていない」も同じ罠

注意すべきは、MQLの定義が一応文書には存在しているケースです。導入支援パートナーが作成したドキュメントが残っているものの、現場の感覚と乖離しており、誰も信じていない——これは定義がない状態と実質的に同じです。むしろ「形だけ存在する」方が、問題が見えにくいぶん厄介です。

原因②|ライフサイクルステージとリード管理の現実が合っていない

このセクションでは、HubSpot標準のライフサイクルステージが自社のセールスプロセスに合っていない場合の問題と対処を解説します。

HubSpotには「サブスクライバー → リード → MQL → SQL → オポチュニティ → 顧客」という標準のライフサイクルステージが用意されています。しかしこの並びは、すべてのBtoB企業にフィットするわけではありません。とくに以下のような場合、標準のままでは現場が回りません。

  • 商材が複雑で、SQLになる前に「事前商談」「PoC」のような中間ステージがある
  • インサイドセールスとフィールドセールスで担当が分かれており、間に「IS架電中」フェーズがある
  • 既存顧客へのアップセル・クロスセルが重要で、「顧客」以降のステージ管理が必要

標準ステージのまま無理に運用すると、現場は「実態と違う」と感じてHubSpotの更新を止めます。営業がスプレッドシートに戻る現象は、ほぼこの原因によって起きます。

カスタムプロパティでの拡張も要注意

カスタムプロパティを安易に増やすことも逆効果になります。「念のため作っておく」項目が10個20個と増えていくと、入力者の負担が上がり、結果としてどのプロパティも信頼できないデータになります。プロパティ設計は「なぜこの情報が必要か」「誰がどのタイミングで入力するか」を明確にしたものだけに絞るのが鉄則です。

原因③|ワークフローが「作りっぱなし」で塩漬けになっている

このセクションでは、ワークフロー機能を活用できていない典型パターンと、改善の優先順位の付け方を解説します。

HubSpotの最大の強みは、ワークフローによる自動化機能です。しかし多くの企業で、ワークフローはオンボーディング時に5〜10本作られたまま、その後ほぼ手付かずになっています。

これには2つのパターンがあります。1つ目は「動いているが、誰も成果を見ていない」パターン。たとえば資料DL後の自動メール配信が回っているものの、開封率もクリック率も誰もチェックしておらず、改善されない状態です。2つ目は「条件が古くなって誤作動している」パターン。組織変更や商品ラインの変更があったのに、ワークフローのトリガー条件が更新されておらず、間違った相手に間違ったメールが届いているようなケースです。

ワークフローは作るより定期的にレビューする運用の方が重要です。月1回でもよいので、稼働中のワークフロー一覧を出し、「成果数値」「最終更新日」「担当者」を確認する場を作ることをおすすめします。設計の考え方はHubSpotワークフロー設計のBtoB実務ガイドで詳しく解説しています。

原因④|レポートが意思決定に接続されていない

このセクションでは、レポートが「数字を出すだけのもの」になっている問題と、意思決定に接続するための考え方を解説します。

HubSpotのダッシュボードに毎月同じKPIが並んでいるのに、その数字を見て施策が変わったことがない——これは非常によくある状態です。原因はレポートの作り方ではなく、「何のためのレポートか」が決まっていないことにあります。

レポートには本来、目的に応じて3つの異なる種類があります。

レポートの種類 目的 見る頻度・主体
進捗モニタリング 計画に対する遅れ・先行を早期発見する 週次・マーケ担当
意思決定用 施策の継続・停止・拡大を判断する 月次・マーケリーダー
経営報告用 事業への貢献を経営層に説明する 月次・四半期・経営層

使いこなせていない企業では、この3つが混在した「とりあえず見ているダッシュボード」が1枚だけ存在し、誰の意思決定にも使われていません。レポートを立て直すときは、まず「誰がいつ何を判断するためのレポートか」を定義してから作り直す必要があります。具体的な設計手順はHubSpotレポート設計のBtoB実践ガイドを参照してください。

原因⑤|データ品質が劣化し、誰もHubSpotを信じていない

このセクションでは、HubSpotの活用度を静かに下げていく「データ品質劣化」の問題と、その対処の優先順位を解説します。

運用が長く続くほど、HubSpot内のデータ品質は劣化していきます。重複コンタクト、退職した担当者の古いメールアドレス、フォーマットがバラバラの会社名、空欄だらけのプロパティ——こうしたデータの汚れが蓄積すると、現場は次第にHubSpotのデータを信じなくなります。

「使いこなせていない」と感じている企業の多くは、実はこのフェーズにいます。ツールに不満があるのではなく、ツールの中身が信じられないので、結局スプレッドシートで二重管理を始めてしまうのです。

データクレンジングの優先順位

データ品質の改善は、すべてを一気にやろうとすると挫折します。優先順位は次のように考えるのが現実的です。

  1. 意思決定に直接使うデータから整える:MQL判定に使うプロパティ、レポートで集計しているプロパティを最優先
  2. 新規データの汚染を止める:フォームの必須項目見直し、選択肢の標準化、自動補完ルールの設定
  3. 過去データのクレンジングは部分的に:全件きれいにしようとせず、影響範囲の大きいセグメントから着手

原因⑥|営業との情報分断が解消されていない

このセクションでは、HubSpotがマーケ単独のツールに留まり、営業との連携が機能していない問題を解説します。

HubSpotがマーケティング部門だけのツールになっていると、ROIは劇的に下がります。マーケが獲得したリードがどう商談化したのか、どんな失注理由だったのかが見えなければ、施策の改善ループが回りません。

営業との分断には、ツール上の問題と組織上の問題の両方があります。ツール上では、Sales Hubが入っていない、CRMとの連携が途切れている、プロパティが営業側で更新されない、といった現象が起きます。組織上では、マーケと営業のKPIがそろっていない、定期的に対話する場がない、リード品質に対する共通言語がない、といった問題が背景にあります。

HubSpotだけで解決できる範囲は限られており、組織横断の連携設計が必須です。詳しくはマーケ・セールス連携の仕組みづくりマーケとインサイドセールスの連携設計を参照してください。

原因⑦|社内に「設計できる人」がいない

このセクションでは、HubSpotを運用できても「設計」ができる人材が不在であることの構造的な問題を解説します。

ここまで6つの原因を見てきましたが、それらすべての背景にある最大の構造的問題は、社内に「HubSpotを設計できる人材」がいないことです。

「使える人」と「設計できる人」は別のスキルセットです。前者は機能の操作を覚えている人、後者はビジネス課題からHubSpotの構成を逆算できる人を指します。多くの企業では前者しかおらず、結果として「機能は知っているが、何をどう設計すべきかは分からない」という状態に陥ります。

「使える人」と「設計できる人」のスキル構造 使える人(オペレーター) ・フォーム作成、メール配信ができる ・ワークフローの設定操作ができる ・レポートの数字を取れる ・コンタクト・リストを管理できる → ヘルプ記事と研修で習得可能 → 短期間(数週間〜)で身につく ※ ここで止まると塩漬け化する 設計できる人(アーキテクト) ・MQL/SQLを事業課題から定義できる ・ライフサイクルを業務に合わせ設計 ・KPIから逆算してレポートを設計 ・営業との連携を仕組みで担保できる → BtoBマーケ全体の経験が前提 → 数年単位で身につくスキル ※ 自走できる運用の鍵
「HubSpotが使える」状態と「HubSpotを設計できる」状態は、求められるスキルが大きく異なります。多くの企業はオペレーター層しか持たず、設計者の不在が運用不全の根本原因になっています。

設計できる人材を社内で育てるには時間がかかります。一方で外部のリソースを使う場合、何を依頼すべきかの整理が必要です。HubSpot運用の外注先選びHubSpot運用の社内リソース不足への対処も合わせて検討してください。

使いこなせない状態から自走運用へ移行する4ステップ

このセクションでは、現状を立て直すための具体的なステップを順序立てて解説します。

原因を特定しただけでは状況は変わりません。立て直しには、優先順位を決めて段階的に進めることが重要です。一気にすべてを直そうとすると、現場の負荷が上がりすぎて挫折します。

ステップ1|診断:どの層に問題があるか棚卸しする

まず、本記事で紹介した7つの原因について、自社にどれが当てはまるかを率直に棚卸しします。複数当てはまるのが普通です。1〜2週間かけて、関係者数名で議論しながらリストアップしてください。

ステップ2|定義の再構築:MQL・ライフサイクル・KPI

立て直しは必ず「定義の再構築」から始めます。MQLの定義、ライフサイクルステージ、追うべきKPI——この3つを文書化し、関係者で合意することが、後続のすべての作業の前提になります。ここを飛ばしてツールの設定から始めると、また同じ場所に戻ってきます。

ステップ3|HubSpotの再構成:設計を反映

定義に基づいてHubSpotを再構成します。プロパティの整理、ライフサイクルの設定、ワークフローの再設計、レポートの作り直しを行います。一度にすべてではなく、優先度の高いところから順に進めます。

ステップ4|運用ルーチンの定着:レビューサイクル

最後に、定期的なレビューの仕組みを組み込みます。月1回のワークフロー棚卸し、四半期ごとのMQL定義の見直し、データ品質の月次チェックなど、ルーチンとして回す体制を作ります。これがあって初めて、使いこなせない状態から脱却できます。

まとめ

HubSpotが使いこなせない原因は、ツールの操作スキル不足ではなく、設計・運用・組織の3層の構造問題にあります。本記事で挙げた7つの原因——MQL定義の曖昧さ、ライフサイクルの不整合、ワークフローの塩漬け、レポートの目的不在、データ品質の劣化、営業との分断、設計人材の不在——のうち複数が同時に発生しているのが、ほとんどの企業の実態です。

立て直しの鍵は「定義の再構築から始める」ことです。ツール設定から手をつけたくなる気持ちは分かりますが、定義のないままどれだけHubSpotを触っても、また同じ場所に戻ります。診断 → 定義 → 再構成 → 運用ルーチン化、という順序を守って進めることをおすすめします。

もし社内に設計できる人材がおらず、立て直しの進め方そのものに自信が持てない場合は、外部の知見を活用するのも有効な選択肢です。HubSpot設定代行運用外注の検討材料としてもご活用ください。

よくある質問(FAQ)

HubSpotを使いこなせない原因として、最も多いものは何ですか?
最も頻度が高いのは「MQLの定義が曖昧であること」です。MQLが明確でないと、スコアリング、ワークフロー、レポートのすべてが基準を持てず、ツールが意思決定に使えなくなります。次に多いのは、ワークフローやレポートが導入時のまま塩漬けになっているケースです。
導入してから何ヶ月くらいで「使いこなせない」状態に陥ることが多いですか?
明確な統計があるわけではありませんが、現場の感覚として、導入から半年〜1年の間に多くの企業が運用の停滞を経験します。オンボーディング期間中はパートナーや支援担当のサポートで動いていたものが、自走フェーズに入ったタイミングで運用が回らなくなる、という構造です。
使いこなせない状態を立て直すのに、どのくらいの期間がかかりますか?
問題の深さによりますが、定義の再構築から運用ルーチンの定着まで含めると、最低でも3〜6ヶ月は見ておくのが現実的です。一気に直そうとせず、優先度の高い領域から段階的に進めることをおすすめします。
外部に依頼する場合、何を頼めばよいですか?
「設計フェーズ」と「運用フェーズ」を分けて考えるとよいでしょう。設計フェーズではMQL定義、ライフサイクル設計、KPI設計といった上流の意思決定支援を依頼し、運用フェーズではワークフローやレポートの構築・継続改善を依頼するのが一般的です。何を頼めるかについては、HubSpot関連サービス一覧もあわせて参照してください。
無料版のHubSpotでも使いこなせない問題は発生しますか?
はい、発生します。むしろ無料版の方が機能制限のなかで設計の優先順位が問われるため、定義の曖昧さが致命的になりやすい傾向があります。有料版に移行すれば解決するわけではなく、根本は同じ問題です。HubSpot無料版と有料版の違いも参考にしてください。
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この記事を書いた人

Tomohiro Toukaichi

BtoB SaaSのマーケティング責任者を経験後、フリーランスとして独立。マーケティング戦略設計、KPI・予算設計、広告運用、HubSpot設計・ファネル構築・リードナーチャリングなど、戦略から実行まで一気通貫で支援。

MQL +150% SQL転換率 +30% HubSpot設計・保守運用
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