HubSpotを契約したはいいものの、「何から始めればいいかわからない」「設定が多すぎて途中で止まってしまった」という声は、BtoBマーケティングの現場で珍しくありません。HubSpotはCRM・MA・セールス・カスタマーサービスの機能を統合した強力なプラットフォームですが、その分だけ初期設定の項目が膨大で、優先順位を誤ると後から大規模な修正が必要になります。たとえばプロパティの設計を誤ってデータが分散したまま運用を始めてしまったり、メール送信ドメインの認証を後回しにしたために配信到達率が低下したりと、初期段階の判断ミスは数か月後に深刻な問題として顕在化します。この記事では、HubSpotの初期設定を「ポータル基本設定→CRM設計→コミュニケーション設定→コンテンツ・フォーム→自動化→分析・権限」という6つのフェーズに分け、各フェーズで確認すべき具体的な設定項目をチェックリスト形式で解説します。導入直後に一度だけ読み込んで、設定漏れをゼロにすることを目指してください。
目次
HubSpot初期設定を体系的に進めるべき理由
このセクションでは、初期設定を場当たり的に進めることのリスクと、体系的なアプローチが必要な背景を整理します。
HubSpotは設定を後から変更できる項目が多い反面、変更コストが高い設定も存在します。代表的なのが「コンタクトのプロパティ設計」と「パイプライン構造」です。運用開始後にこれらを変更すると、既存データの一括更新や、ワークフロー・レポートの再設計が必要になり、実務負荷が大きくなります。
また、HubSpotはハブ間の連携が前提の設計になっているため、Marketing Hub・Sales Hub・Service Hubのどれを使うにしても、CRM(コンタクト・会社・取引オブジェクト)の設計が土台になります。この土台を固めてから各ハブの設定を進めるという順序を守るだけで、後戻りの量は大幅に減ります。
以下では、実務で頻出する初期設定の落とし穴を踏まえながら、6つのフェーズに沿って設定項目を解説します。
Phase 1:ポータル基本設定チェックリスト
ポータルの基本情報とセキュリティ設定を正しく整えることで、その後の全設定が一貫性を持ちます。
HubSpotにログインした直後に確認すべき基本設定を以下にまとめます。これらは小さな項目に見えますが、後のレポートや自動化の動作に直結します。
会社情報・タイムゾーン・通貨
- 「設定」→「アカウントのデフォルト」で会社名・ロゴ・業種を入力する
- タイムゾーンを「Asia/Tokyo」に設定する(デフォルトはUS Eastern になっている場合がある)
- デフォルト通貨を「JPY(日本円)」に変更する(取引額レポートに影響する)
- 会社のウェブサイトドメインを登録する
ユーザーアカウントとシングルサインオン
- 管理者アカウント(スーパー管理者)は複数人に設定しておく(担当者離任リスクに備える)
- Google WorkspaceまたはMicrosoft 365のSSOを利用できる場合は設定しておく
- 2段階認証(2FA)を組織全体で強制する設定を有効にする
トラッキングコードの設置確認
- HubSpotのトラッキングコード(JavaScript)を自社Webサイトの全ページに設置する
- 設置後、HubSpotの「レポート」→「トラフィックアナリティクス」でデータが入ってくることを確認する
- CookieバナーのGDPR/個人情報保護法対応を設定する(日本向けはPIP法への配慮が必要)
Phase 2:CRM設計チェックリスト(最重要フェーズ)
CRMオブジェクトの設計は後から変更するコストが最も高く、最初に慎重に設計すべきフェーズです。
HubSpotのCRMは「コンタクト(人)」「会社(組織)」「取引(商談)」「チケット(問い合わせ)」という4つの標準オブジェクトを中心に構成されます。これらのオブジェクトの関係性と、各オブジェクトに紐づけるプロパティを最初に設計しておくことが、運用品質を左右します。
オブジェクトの関連付け設定
- コンタクトと会社の自動関連付けルールを確認する(メールドメインで会社を自動紐付けする設定)
- 1つのコンタクトが複数の会社に紐づくケースがあるか、業務フローを踏まえて判断する
- 取引オブジェクトとコンタクト・会社をどのように関連付けるか運用ルールを決める
プロパティ設計
- HubSpotのデフォルトプロパティを一覧で確認し、既存の業務データと対応するものをマッピングする
- カスタムプロパティを作成する場合は「フィールドタイプ(テキスト/ドロップダウン/数値など)」を慎重に選択する(後から変更が難しい)
- プロパティのグループ(カテゴリ)を整理し、社内の業務分類に合わせる
- 必須プロパティ(例:担当営業、商談ステージ、リードソース)を決めてフォームとの連動を確認する
パイプライン設計
- 営業プロセスに合わせた取引パイプラインのステージ名と定義を決める
- 各ステージの「成約確率(%)」を実態に即した数値で設定する(レポートの精度に影響する)
- 複数のパイプラインが必要な場合(例:新規獲得と既存アップセルで別管理)は最初から分けて設計する
リストの設計方針
- アクティブリストとスタティックリストの使い分けルールを決める
- リスト名の命名規則を統一する(例:[MA]新規リード_未商談、[営業]エンタープライズ対象 などのプレフィックスルール)
Phase 3:メール・コミュニケーション設定チェックリスト
ドメイン認証とメール配信設定は、後回しにすると配信到達率に直接影響するため、早期に完了させるべき設定です。
BtoBのMAにおいてメール到達率は施策の成否を左右します。HubSpotでのメール設定において特に重要なのが、送信ドメインの認証です。SPF・DKIM・DMARCの設定が不十分な場合、送信したメールが受信者のスパムフォルダに振り分けられる確率が高まります。
送信ドメイン認証
- 「設定」→「マーケティング」→「メール」→「送信ドメイン」で、自社ドメインを使った送信ドメインを追加する
- DNSにSPFレコードを追加する(HubSpotの指示に従い、既存のSPFレコードと統合する)
- DKIMレコードをDNSに追加し、HubSpotの認証チェックで「確認済み」になることを確認する
- 可能であればDMARCポリシーも設定し、なりすましメールのリスクを低減する
送信元メールアドレスの設定
- マーケティングメールの送信元アドレスを会社ドメインのものに統一する(フリーメールは不可)
- 返信先(Reply-To)アドレスを設定し、コンタクトからの返信を受け取れる体制を整える
- 送信者名(From name)の表記ルールを決める(会社名のみ、担当者名+会社名など)
配信停止・オプトアウト設定
- マーケティングメール全通に配信停止リンクが含まれていることを確認する(法的要件)
- 配信停止後のサンキューページを自社ブランドに合わせてカスタマイズする
- 購読タイプ(サブスクリプションタイプ)を設定し、受信者が種別ごとに配信を管理できるようにする
Gmailまたは会社メールとの個人メール連携(Sales Hub利用時)
- セールス担当者の個人メール(GmailまたはOutlook)をHubSpotに接続し、メールのログが自動保存されるようにする
- カレンダー連携(Googleカレンダー/Outlookカレンダー)を設定し、ミーティングリンクが使えるようにする
Phase 4:コンテンツ・フォーム・ランディングページ設定チェックリスト
リード獲得の入口となるフォームとランディングページの設定を整え、コンタクトデータが正確に蓄積される仕組みを作ります。
HubSpotのフォームとランディングページは、コンタクトデータの入口です。ここの設計が甘いと、取得したリードのデータ品質が低下し、後続のリードナーチャリングや営業連携が機能しません。
フォームの設計
- お問い合わせ・資料請求・ホワイトペーパーDLなど、用途別にフォームを作成する
- フォームに設定するプロパティは、Phase 2で設計したプロパティと一致させる
- フォームの「必須項目」を最小限にし、コンバージョン率を下げないよう配慮する
- プログレッシブプロファイリング(再訪問時に未入力のプロパティを追加表示する機能)の利用を検討する
- フォーム送信後のサンキューメッセージまたはリダイレクト先URLを設定する
ランディングページ設定(Marketing Hubのページ機能を使う場合)
- 独自ドメインをHubSpotのランディングページ機能に接続する
- ページテンプレートのブランドカラー・フォントをブランドキットに合わせて設定する
- OGP(Open Graph)設定を各ページに入力する(SNSシェア時の見た目に影響)
リードソースの追跡設定
- 広告・メール・SNSからの流入にUTMパラメータを付与するルールを社内で統一する
- HubSpotのアナリティクスでUTMパラメータが正しくコンタクトに紐づいているか確認する
- オフライン(展示会・セミナー)からのコンタクトは、リードソースを手動で入力するルールを決める
Phase 5:自動化(ワークフロー)設定チェックリスト
ワークフローは強力な自動化ツールですが、設定ミスが大量送信ミスにつながるため、テスト手順を必ず踏んでから本番稼働させます。
ワークフローはHubSpotの中核機能の一つですが、初期設定の段階では「最小限の自動化から始めて、段階的に拡張する」ことを推奨します。最初から複雑な分岐を組むと、バグの特定と修正が難しくなります。
フォーム送信後のサンキューメール自動送信
- 各フォームに対応したサンキューメール(確認メール)のワークフローを作成する
- トリガー条件「フォーム送信:[フォーム名]」を正確に設定する
- メール送信前に「登録条件の再チェック」フィルターを挟み、誤送信を防止する
リードスコアリングの設定
- 「コンタクトスコア」プロパティを使ったリードスコアリングの基準を設計する(例:ページ閲覧+5点、フォーム送信+20点、スコア50点以上で営業通知など)
- スコアが一定値を超えた場合に営業担当へSlackまたはメールで通知するワークフローを作成する
- スコアリングの減点ルール(長期間サイト未訪問など)も設計する
SalesとMarketingの連携ワークフロー
- MQL(Marketing Qualified Lead)の定義と、MQL達成時に営業担当に割り当てるルールをワークフローで自動化する
- 取引ステージが変化した際のコンタクトプロパティ更新ワークフローを設定する
ワークフロー本番前チェック
- 「テストコンタクト」を使ってワークフローの動作をドライランで確認する
- 本番稼働後は最初の24〜48時間で「登録済みコンタクト」数と実際の動作ログを確認する
- ワークフロー名の命名規則を統一する(例:[MA]フォームDL後_サンキューメール_リソース名)
Phase 6:レポート・ダッシュボード・ユーザー権限チェックリスト
レポートとユーザー権限の設計は、導入効果の可視化と情報セキュリティの両面で初期に固めておくべき設定です。
HubSpotを導入する目的の多くは「マーケティングと営業活動の可視化と効率化」です。そのためには、経営層や営業マネージャーが日常的に確認できるダッシュボードを初期段階で用意しておくことが重要です。また、ユーザー権限が適切に設計されていないと、設定の誤操作やデータ漏洩リスクが生じます。
ダッシュボードの設計
- マーケター向けダッシュボード(セッション数・MQL数・コンバージョン率・メール開封率)を作成する
- 営業マネージャー向けダッシュボード(パイプライン金額・ステージ別件数・成約率)を作成する
- 経営層向けの月次レポートダッシュボードを設計する(必要な場合)
- ダッシュボードのアクセス権(閲覧のみ/編集可)を適切に設定する
ユーザー権限(チームと役割)
- HubSpotの「チーム」機能を使い、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・管理者などのチームを作成する
- 各チームに割り当てる「役割(ロール)」を設計し、権限過多・権限不足が生じないようにする
- スーパー管理者権限を持つアカウントは最小限(2〜3名)にする
- 退職者や異動者が出た際のアカウント無効化・データ再割り当てフローを運用ルールとして文書化する
レポートの精度担保
- HubSpotの「除外IPアドレス」設定に社内のIPアドレスを登録し、社内アクセスをトラッキングから除外する
- テスト送信用の社内メールアドレスをマーケティングコンタクトから除外するルールを設定する
【見落とし事例】HubSpot初期設定でよくある失敗パターン
実務でよく報告される設定ミスのパターンを整理し、同じ失敗を避けるための視点を提供します。
HubSpotの導入プロジェクトにおいて、初期設定段階で繰り返し発生しやすい問題があります。以下に代表的なパターンを整理します。ただし、これらはHubSpotの公式サポートやコミュニティで報告される一般的な問題として知られているものであり、特定企業の事例を指すものではありません。
プロパティの乱立と重複
「会社名」「企業名」「法人名」のように同じ情報を指すプロパティが複数作られ、データが分散するケースです。これは命名規則とプロパティ作成権限(管理者のみが作成できる設定)を最初に定めることで防止できます。
ドメイン認証の後回し
SPF・DKIMの設定を「とりあえずHubSpotデフォルトの送信ドメインで始めて後から変更する」という判断をしたために、初期のメール配信が自社ドメインからでなく、開封率・到達率のデータが汚染されてしまうケースです。送信ドメインは最初に必ず設定してください。
テストコンタクトをマーケティングコンタクトとして扱う
開発・テスト段階で作成したコンタクトが「マーケティングコンタクト」としてカウントされ、ライセンスの上限に達するという問題です。テスト用のメールアドレスはドメインごとリストから除外するか、「マーケティングコンタクト」ではなく非マーケティングとして管理するルールを設けてください。
パイプラインのステージ定義が曖昧なまま運用開始
「商談中」「提案済み」「交渉中」などのステージ名が存在するが、どの状態になったらステージを進めるかの定義が担当者ごとに違うケースです。ステージ定義は社内ドキュメントに明文化し、HubSpotのプロパティ説明欄にも記載することを推奨します。
まとめ:HubSpot初期設定は「順序」と「CRM設計の優先」が鍵
初期設定の全体を振り返り、運用開始後に向けた確認事項を整理します。
HubSpotの初期設定は、6つのフェーズを正しい順序で進めることで、後戻りの少ない安定した運用基盤を作ることができます。特に重要な点を以下に整理します。
- Phase 2(CRM設計)を最優先で完了させる:プロパティ設計とパイプライン構造は変更コストが最も高いため、運用開始前に確定させる
- ドメイン認証(SPF・DKIM)は早期に設定する:後回しにするとメール配信データの品質が損なわれる
- ワークフローはシンプルなものから始める:複雑な自動化は段階的に追加し、テストを必ず経由する
- 命名規則と権限設計を最初に文書化する:チームが拡大しても設定の一貫性を保てる
この記事のチェックリストを活用して、HubSpotの初期設定を体系的に完了させてください。設定内容の妥当性について専門家のレビューを受けたい場合や、自社のマーケティング戦略に合わせたHubSpotの活用方法を相談したい場合は、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
- HubSpotの初期設定はどのくらいの期間がかかりますか?
- 設定の範囲や社内のリソースによって異なりますが、Marketing HubとSales Hubを同時に立ち上げる場合、基本設定だけであれば1〜2週間、CRM設計や既存データの移行・クリーニングを含めると1〜2か月を見込むケースが多いです。担当者が専任でアサインできるかどうかが期間を大きく左右します。
- 既存のSalesforceとHubSpotを連携する場合、初期設定で注意すべきことは何ですか?
- HubSpotとSalesforceの双方向同期(ネイティブインテグレーション)を利用する場合、まずHubSpot側のオブジェクト・プロパティ設計とSalesforceのオブジェクト・項目のマッピングを先に決める必要があります。同期の方向(どちらが正)とレコードの所有権のルールを明確にしないと、データの二重管理や上書きミスが発生します。
- 無料版(HubSpot Free)でも初期設定の項目は同じですか?
- 基本的なCRM設定(コンタクト・会社・取引の管理)と一部のフォーム機能は無料版でも利用できますが、ワークフロー・マーケティングオートメーション・カスタムレポートは有料プランが必要です。無料版から始める場合でも、CRM設計とプロパティ設計は有料版移行後の拡張を見越して行うことを推奨します。
- マーケティングコンタクトの上限に達しそうな場合、どう対処すればいいですか?
- HubSpotのマーケティングコンタクト数はプランのライセンスで上限が決まっています。上限に近づいた場合は、メールの送信対象外となっているコンタクトを「非マーケティングコンタクト」に変更することでカウントを減らすことができます。また、定期的にエンゲージメントの低いコンタクト(長期間メール未開封など)を洗い出し、リストを最適化する運用を推奨します。
- HubSpotの初期設定を内製する場合と、パートナーに依頼する場合の違いは何ですか?
- 内製の場合はコストを抑えられる反面、HubSpotの仕様理解とCRM設計の両面の知識が社内に必要です。パートナー(HubSpot認定パートナー)への依頼は初期費用が発生しますが、設計の妥当性チェックや移行支援を受けられるため、スタート時のリスクを下げる効果があります。どちらが適切かは、社内リソースの状況と要件の複雑さによって判断することを推奨します。
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